労働力不足や市場競争の激化を背景に、DXによる生産性向上は業種・規模に関わらず重要な課題となっています。しかし、業務効率化と混同されるなど、正しく理解されていないケースも目立つのが実情です。本記事では、生産性向上の意味を整理するとともに、生産性の計算方法や向上させるための取り組み方法、役立つツール、成功事例まで解説します。
そもそも生産性向上とは
まずは生産性向上とは何か、業務効率化との違いについて見ていきましょう。
生産性向上の意味
生産性とは、投入したヒト・モノ・カネ・情報などの経営資源に対して、どれくらいの成果を生み出したのか、比率を表したものです。生み出された成果の割合が大きいほど、生産性が高いということになります。
たとえば、100人の従業員で100個の製品を作っていたのを50人の従業員で同数の製品を作れるようになれば、生産性が2倍に向上しているということです。あるいは、100人の従業員が100個の製品を作っていたのを200個作れるようになった場合も、生産性が2倍になっています。
つまり、より少ない経営資源で高い成果を得られるようにする取り組みが、生産性向上の鍵となります。
業務効率化との違い
生産性は、投入した経営資源に対する成果物の割合を示すものです。これに対し、業務効率化は時間・労力・コストの無駄を省き、リソースの有効活用を目指すことをいいます。
たとえば、アナログに行ってきた業務をデジタル化することでスピーディな生産が可能になれば、業務効率が高まり、結果的に生産性に寄与します。したがって、業務効率化は生産性を向上させるための一つの手段といえます。
生産性の種類と計算方法
生産性の測り方には様々なものがあり、「何を評価するか」によって算出方法が変わります。主に指標として用いられているのは、次の3つです。それぞれの計算方法を見ていきましょう。
付加価値労働生産性
ここでいう付加価値とは、粗利のことを指します。付加価値労働生産性は、付加価値を労働量(労働者数・労働時間)で割り、算出します。
付加価値労働生産性=付加価値額÷労働量(労働者数または労働者数×労働時間) |
労働者一人当たり、または時間当たり、どれくらいの粗利を生み出しているかがわかります。
物的労働生産性
物的労働生産性とは、労働量に対する生産量・数など物的な成果を見るものです。以下の計算式となります。
物的労働生産性=生産量÷労働量(労働者数または労働者数×労働時間) |
労働者一人当たり、または時間当たり、どれくらいの生産量を生み出しているかを見たいときに用います。
全要素生産性(TFP)
全要素生産性とは、生産のために投入した全要素に対する生産性を測るものです。付加価値労働生産性と物的労働生産性は、労働量の観点から生産性を算出しますが、全要素生産性では労働量に加え、設備や技術、無形資産といった資本その他の要素を全て含んで計算します。
全要素生産性=生産量または付加価値額÷(労働量+資本+その他の要素) |
生産性に関係するのは労働量だけではないため、より詳細に自社の生産性を測りたい場合に用いられます。
生産性向上の5つの方法
生産性を向上させるにはどのような取り組みが必要なのか、ここでは押さえておきたい5つの方法を見ていきます。
1.業務の可視化
生産性を下げている要因の一つは、業務が属人化したりブラックボックス化したりして、非効率なまま慣習的に行っているケースです。効率化を図る上では、まず無駄な作業や品質にばらつきが出ている業務を洗い出すことが必要です。
業務を可視化することで自社が取り組むべき課題が見つかるのと同時に、常に生産性を意識するようになるなど、従業員のモチベーションにも良い効果が期待できます。業務の見える化を進めるときは、以下の点を明らかにするとよいでしょう。
- 業務フロー
- 各工程にかかっている時間やコスト
- 従業員ごとの業務負荷
2.業務の標準化・平準化
業務の標準化とは、業務フローを統一することです。全員が最適化されたプロセスで業務に取り組めるようになれば、当然ながら、生産性向上につながります。また、属人化・ブラックボックス化を防ぐこともできます。
業務の平準化とは、従業員によって業務量にばらつきが出ないように調整することです。特定の従業員に業務が集中している状態では、リソースを有効活用できているとはいえません。また、他の従業員が業務内容を理解できないなど属人化が進んだり、ミスが多発したりといったデメリットも生んでしまいます。
生産性向上に取り組む上では、業務の標準化・平準化の観点から自社の現状を見直すことが必要です。
3.業務の自動化
DXによる生産性向上の要となるのが、業務の自動化です。現在は様々なシステム・ツールが提供されているため、これまでアナログに行ってきた業務の多くを自動化することが可能になっています。
業務の自動化が進めば、従業員の業務負荷が軽減されるとともに、コア業務に集中できる体制を作りやすくなります。より短納期での対応が可能になるうえ、人件費やその他諸経費の削減もできるため、自社の競争力強化につながります。
4.リソースの最適な活用
生産性向上には、自社の経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報の使い方を最適化することが重要です。とくに「ヒト」は、モノ・カネ・情報を扱うことになるので、基盤となるものです。
人材面では、従業員のパフォーマンスを最大化するための適切な人材配置が大切な要素となります。スキルや得手・不得手の傾向を把握して、従業員の能力を引き出せる業務を任せるのが理想的でしょう。従業員のモチベーションが高まれば、より生産性の高い仕事が期待できます。
また、自社が保有する顧客データやコンテンツなども資産です。これらを有効に活用することも、生産性向上につながるポイントの一つです。
5.アウトソーシング・BPOの活用
生産性向上で検討したいことの一つがアウトソーシングやBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)です。自社の限られた人的資源はコア業務にあて、それ以外の付随する業務を外部に委託することで、より生産性の高い運用が可能になるケースが少なくありません。
委託できる業務には、以下のようなものがあります。
- 経理業務・請求業務
- 受付業務・電話代行
- 事務作業
- コールセンター
- マーケティング業務
- データ処理 など
アウトソーシングやBPOでは、その分野での専門性を持つ即戦力を活用できるため、育成コストがかからないというメリットもあります。
生産性向上に役立つシステム・ツール
現在はDXを推進するクラウド型のツールが数多く提供されており、短納期・低料金で利用できるなど導入ハードルが下がっています。ここでは、DXによる生産性向上に貢献するシステム・ツールを見ていきます。
コミュニケーション・情報共有
スムーズなコミュニケーションやリアルタイムの情報共有は、業務効率を高めたり、組織の連携や連帯感を強めたり、生産性向上に大いに役立ちます。以下のようなツールが提供されています。
- ビジネスチャット
- グループウェア
- プロジェクト管理ツール
- タスク管理ツール
- マニュアル作成管理ツール
- 日報アプリ
- メール共有システム
オンライン会議・ウェビナー
テレワークが進んでいる今、社内のミーティングや外部との打ち合わせに必須となっているのがオンライン会議ツールです。また、コロナ禍では、ウェビナーツールを活用して見込み客との接点作りに取り組む企業も増えました。生産性を上げるという意味でも、今後も有効に活用したいツールの一つです。
- オンライン会議ツール
- ウェビナーツール
- オンライン商談ツール
業務のデジタル化・オンライン化
これまで手作業で行うのが一般的だった業務も、ツールを活用することで効率化を図れます。デジタル化・オンライン化を実現できるツールの例を以下に挙げます。
- オンラインストレージ
- 文書管理システム
- ワークフローシステム
- 電子契約サービス
- クラウドFAX
業務効率化・改善
業務の自動化やシステム化を進めることで、業務のスリム化が促進されたり、業務負荷が軽減されたりします。以下のようなツールが役立ちます。
- RPA(Robotic Process Automation)
- ローコード・ノーコード開発ツール
- 業務アプリ作成ツール
- 会議室予約システム
- 車両管理システム
生産性向上を支援する助成金・補助金と制度
生産性向上の重要性は理解しているものの、システム・ツールの導入にはコストがかかることから二の足を踏んでいるという企業は少なくないでしょう。生産性向上は、国を挙げて取り組むべきテーマとなっているため、さまざまな助成金・補助金制度が設けられています。
ここでは、とくに押さえておきたい制度を紹介します。
国による助成金・補助金
国による生産性向上のための助成金・補助金には、次のものがあります。
- 業務改善助成金
小規模事業者や中小企業の生産性向上を支援することが目的の助成金です。設備投資により最低賃金を一定以上引き上げた場合に、かかった費用の一部が助成されます。
- IT導入補助金
生産性向上を目的としたITツールを導入した場合、かかった費用の一部を補助するものです。
このほか、労働生産性を向上させるための取り組みを行い、生産性要件を満たした場合に、助成金の割り増しがある制度も多数あるので確認しておきましょう。
- キャリアアップ助成金
- 両立支援等助成金
- 人材開発支援助成金 など
中小企業等経営強化法(旧・生産性向上特別措置法)
生産性向上特別措置法は、小規模事業者・中小企業が生産性向上のために設備を導入する場合に、固定資産税を軽減するというものです。2018年に施行され、当初は2020年までの措置とされていましたが、コロナ禍の影響を鑑みて2022年度末まで延長されました。
対象となる設備は、機械装置や測定・検査工具、器具備品、建物附属設備、ソフトウェアなどですが、各市区町村によっても異なるため、事前に確認しておく必要があります。
なお、2021年6月の法改正によって生産性向上特別措置法は廃止され、先端設備等導入制度は中小企業等経営強化法へと移管されています。
参考:中小企業庁|経営サポート「先端設備等導入制度による支援」
DXによる生産性向上の成功事例
ここでは、DXにより生産性向上に成功している事例を紹介します。
京セラ株式会社
素材・部品から機器、サービスまで幅広い事業をグローバルに展開する京セラ株式会社。同社では、紙ベースで行っていた物流倉庫の棚卸を効率化するため、アプリ作成ツールの『Platio』を導入して棚卸アプリを作成。1日かからずに作成し、運用を開始しました。
棚卸報告のデータ化により在庫照合が自動化され、在庫管理の精度が向上しています。また、現場の意見をすぐにアプリに反映できるため、社内の改善提案が活性化したという効果も得ています。
参照:DX事例プラットフォーム『シーラベル』|現場で作った棚卸アプリで 巨大倉庫の在庫管理をスマート化~京セラ株式会社
株式会社ベネッセコーポレーション
教育・出版事業を手掛けるベネッセコーポレーションでは、広告代理店との連絡にメールを使っていましたが、メールのコミュニケーションで起こりがちな「埋もれ」や「担当者が曖昧になる」といった問題に悩んでいました。
同社が導入したのは、タスク・プロジェクト管理ツールの『Backlog』です。タスクの担当者や期限が可視化され、情報共有の効率化に成功。進捗確認のための会議時間は月20時間ほど削減できています。
参照:DX事例プラットフォーム『シーラベル』|月20時間の会議時間削減!ベネッセKids&FamilyがBacklogで広告代理店と新しい協業実現~株式会社ベネッセコーポレーション
DX事例やプロフェッショナルの知見を活用して生産性向上を推し進める
目まぐるしく変化する市場で競争力を維持するには、生産性向上への取り組みが必須です。とはいえ、「何から取り組んでいいのかわからない」という声が多いのが現状です。
DX事例プラットフォーム『シーラベル』は、日本最大級のDX事例検索サイトです。ビジネスの課題・目的や業種・従業員規模などから、さまざまなDX事例を探すことができるため、参考になる情報を手軽に得ることが可能です。
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